2009年 12月 17日
いちばん美しいクモの巣 |
アーシュラ・K・ル=グウィン 長田 弘訳
ジェイムズ・ブランスマン絵
クモ、好きです。共感してくださる方、いますかね…。
子供の頃からなぜか好きで、つぶすなんで絶対できない(正直いうと掃除機で吸ったことはありますが)。
地域によっては、幸運を運ぶものといわれているらしいです。自分はクモを、幸運を運ぶようには思わないけれど、侵しがたい世界観を背負っているように感じます。
クモの巣も同じく。自然がつくる幾何学模様というのは、雪の結晶しかりで、とにもかくにも美しいですよね。
そう思っていたはずなのに、最近はクモの巣を見ると、すぐに振り払っている自分がいる。きれいと思うことがほとんどなくなったんですね。時々、子供の頃見たクモの巣のほうがずっときれいだったなんてちょっと思ってみる。でもそれは、世の中が変わったのではなく、たぶん自分がそういう”場所”にきてしまったということなんでしょう。
この絵本からは、子供の頃いた場所に自分を戻してくれる感覚を覚えました。
100年も手つかずで残された、ほこりまみれのお城に住むクモ・リーザが主人公。リーザは、毎日毎日、先祖代々受け継がれてきたスタイルでクモの巣を張っています。ある日、城の中にクモの巣が張られていない新しい部屋を発見した彼女は、これまでで最も美しいクモの巣を張る決意をします。
この話を読みながら、まるで以前この光景を間近で見たように感じるのは、たぶん自分だけではないと思う。朽ち果てたお城・すべてが死んだその中で、輝き続ける美しいもの…そういうものは、子供の心の底にありがちな光景だと思う。たぶん、おとぎ話のモチーフからくるのでしょう。その光景が、成長していく中で、シュールに発展していくか、醜いものとして認知されるようになるか、はたまた現代的に衣替えするか、記憶の底の底に封印されるか…そういうものだと思います。
さて、この物語の最後で「いちばん美しいクモの巣」は、リーザがそれを目指してつくろうとしていたものではなく(それは、人間たちにも認められ、芸術品として保護されるまでになるのですが)、別のときにつくったものだったということになるのですが――そこのところ、ぜひ、読んでみてください。そのいちばん美しいクモの巣も、きっとあなたが知っていたものであることに気づくはずです。
by ehonya-kirin
| 2009-12-17 19:11